――――――。
あの日、星降る丘へ立って空から星が落ちてくるのを見て、僕は泣いた。
長い時を懸命に輝き光を放ち、そして力尽きて最後の灯を発しながら落ちてくる沢山の星達を見て、
とても心が苦しくて、悲しかった。
星達が輝く事の意味は何なのか、限られた命が有る訳ではないのに、何故尽きねばならないのか…。
それはあの師匠に拾われる前の僕の様で、その落ちてくる星に自分を重ねて見ていた。
「こんな…夜空(そら)は美しいのに…どうして…。」
ギュっと自分の肩を抱き膝から崩れると嗚咽していた。
その時俯いて泣く僕の膝元にコロンと丸く大粒の飴玉位の小さな星が落ちてきた。
その場から動く事なく佇むそれに、最初僕は触れるのが怖くて…。
それでも恐る恐る両手でそれを包み上げ、手のひらで転がすとそれはチカチカと淡い光を放ち表情を変える。
ひんやりとしているのに、何故か温かく感じる星を僕は魅入られたように見つめ、そして抗えない何かに動かされるかのように、それを口に含んだ。
舌の上で転がるそれは始め、ほんのり甘くて。でも甘味と言うなら物足りない様で。
と、次の瞬間はじけたような刺激と、目の前に眩しい光が広がる。真っ暗な宵闇に立っていた筈なのに、その目の前で繰り広げられる光は何度も何度も弾け、色とりどりの光が僕を襲った。
そしてそれが落ち着くと青白い光を纏った力強い球体が闇を割くように瞬くのが見えた。
そして僕はその星に融けいつの間にか宇宙(そら)を見ていた。
僕と言う星の周りに星はなく、遠く数多に光る同じ星々を眺めながら、その数が増えては消えてくのをただジッと見ていた。
次に瞼を瞬くと、あれだけ青く輝きを放っていた星が、熱を外へ放つ様に紅く燃え、それすらも徐々に小さくなっていく。
そして動く事のなかったそれは自分の中に燃やす物すらもなくなり、急に堕ちていく。
堕ちて落ちて、そして僕が見えた。
ペリドット色をした瞳と星がぶつかった瞬間、僕は弾かれる様に体が弾かれる様に後ろへと倒れた。
最初、この地へ足を入れ空を見上げた時、あれほど悲しかったのに、あの星が自分の中へ溶けた瞬間、何故か分からない温かさが心の中に広がりそう感じている自分をギュっと抱きしめたくなった。
倒した体をそのまま横に向けて、泣きながら膝を抱えてうずくまると、
”お帰り…。”
と、呟いていた。
長い長い旅路の中、ずっと1人ではないと。いつか自分を温かく包む辿り着くべき場所が見つかると、そう言われているようで、やはりここに落ちてくる星は、僕と出会う”運命”を持って落ちてくるのだと、そう思った。
「おい、どうした?聞いちゃぁいけなかったか?」
自分が思うよりも長く記憶の中に浸っていたらしい。親父さんから声を掛けられて我に返った。
「いえ…少し思い出していて。」
「何だ、そうか…で、どうだ?爺さんの言っていたもんは見つかったのか?」
「…ええ。多分。」
そう言いながら横でウトウトとしかかっているベドゥを見て答えた。
「そうか、そいつは良かった。爺さんには、そう伝えとくよ。」
親父さんはそう言うと杯を持ち小さく掲げると、”アンタと弟子の幸を願って”と呟いて飲んだ。
僕も”親父さんとこの店に幸あるように”と願って飲んだ。
翌日。
息子である店主に宿代と礼を言うと、僕達は『星降る丘』へと旅立った。
宿を出る前に、親父さんの息子である彼に、
「親父、アンタの事気に入ってるみたいだから、生きている内にまた顔見せてやってくれよ。」
と言われ、僕はまたここを訪れる事を約束した。
ここのラム酒はきっとどこのラム酒よりも美味いだろう。他のどのラム酒を飲んでもきっと僕はここの物を飲みたくなる。
そしてその酒を飲みながら、始めの老人を、親父さんを思い出すのだろう。
またこの先ここで出会う人々も、思い出となって僕の中に残って行くのかもしれない。
そう思うと少し楽しい気持ちになった。
「さぁ、急がないと。夜の節が始まってしまう。」
ベドゥと二人で僕は星降る丘に向かって歩き出した。
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