翌日。といっても太陽は留守で、その代りに月が煌々と煌めいている。
僕とベドゥは荷物を畳み、来た道を戻り始めていた。
暗闇の中頼れる灯りは月明かりとランプの灯のみ。手で持って歩くのも、足場の悪い砂漠では無駄な労力となる。故に、魔法を使いランプを前に浮かせて歩みを進めていた。
「ああ!!!ユルヨさん!失敗しました…!!」
不意にベドゥは立ち止まり、そう叫ぶと後ろを歩く僕に振り返り、こう告げた。
「リリアさんの星!!すっかり忘れてしまってた…どうしよう…。」
「そう言えば…。そうだったね。ふふふ。」
「笑いごとじゃないですよっ!お仕事必ず!って言って約束してきたのに…。」
「さて…どうしようか。」
「…謝ったら許してくれるでしょうか?」
「そうだね。これはベドゥの失敗じゃなくて、魔法使いとしての僕の失敗だから、僕が行って謝るよ。」
「いえ!引き受けたのは僕ですから。ちゃんと行って謝ります…。」
しょんぼりしながら前を向きトボトボと歩きはじめるベドゥの背中を見た時、後ろに垂れるフードが不自然に光っているのが見えた。
「あれ…?ベドゥちょっとまって。」
「何ですか?」
「あ、そのまま前向いてて。」
振り返ろうとするベドゥの肩を掴んで前を向かせたまま、フードの中に手を入れると、その指先に固くてひんやりした物が触れた。
それを取り出し手の平を開くと星が3つ転がり出てきた。全く同じ色ではないし大きさも左程大きいとも言えないが、3つとも淡いピンクの色をした星だ。
「ベドゥ。謝らなくても済みそうだよ?」
「え?」
振り返るベドゥの眼の前にそれを差し出すと、目を丸くして驚く。
「何時の間に入ったんだろう。僕全然気づきませんでした…。」
そっとそれを渡すと、ホッと安堵した笑顔を見せた。
「あ、でも…こんな選んでもいない星でいいのかな…?」
「大丈夫。…言ったでしょ?星の方から選んで落ちてくるって…。」
「うーん…。そうなのかなぁ?何だか出来過ぎているようで信じられないけど…。でもいいや、これでリリアさんとの約束が果たせるし。」
「…綺麗だね。折角だから可愛い箱に入れて、この星に合う色のリボンをかけてあげたらどうだろう。」
「そうですね。どんな顔、するか楽しみだな。」
そうして僕達は今度は隣に並んでランプが照らす道を歩き出した。
「それじゃ、渡しに行ってきます!」
「うん。気を付けて行っておいで。」
長い様で短い旅から戻り、今日依頼人の元へあの星を届けに行く。
星の圧しに少しキラキラと光るルージュピンクの箔があしらってある可愛らしい箱に、星の色と同じ淡いピンクのリボンをかけて持っていった。
依頼人の顔を僕は知らないけれど、きっとベドゥの優しさが伝わって喜んでくれる事だろう。
少女の体の回復の願いを込めてラベンダーの花を添えた。
あの星がこれからの少女の助けになり、より良い道を歩めることを望みながら。
そして仕事をやり遂げた事で、また一つ自信の付いた顔をして戻ってくるベドゥの顔を楽しみに、
僕は宿屋で分けて貰ったあのラム酒を一滴紅茶に落とし、それを飲みながら待つ事にした。
とても僕一人では得られない温かい気持ちに包まれながら。
fin.
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