エリックと『恋人』として付き合うようになって、どれくらい経つだろう。
隣り合って眠る事も日を増すごとに多くなってきていた。
今も隣で穏やかな顔をして静かに寝息を立てている。
そんな彼をじっと見つめ目にかかる髪をそっと撫で払ってやる。
最近、思う事がある。
互いに一緒の時間を過ごし、こうして隣り合って寝ていても、私とエリックは括りでいえば『他人同士』だ。
何度肌を合わせ温もりを感じていても、互いが互いのものではない。
そんな関係を寂しく思うようになっていた。
公にも出来ず、隠れた関係性でいる事に、エリックに対してもそれを強いているのかという事に、辛さを感じる様になっていた。
「フッ…私も、欲張りになったものだな…。」
空を仰ぎそんな呟きが漏れる。
”けじめ”を付けよう…。と心を決した。
決したはいいが、どうそれを伝えようと思い悩む。
”結婚しよう。”
こんなに短い言葉を伝える事がこんなにも難しいとは。
オルヤに結婚を伝えた時、ここまで悩む事はなかったように思う。
若さとは恐ろしい物で勢いに乗じて動く事が出来る。
だか今はもう勢いだけに任せて動ける程若くはなかった。
それにその背景にあるものは、何もなかったあの頃とは違う。
どうした物かと、市場へと足を向けた。
「いらっしゃいっ!クロードさん珍しいな?今日は武具屋じゃないのか?」
雑貨屋の店主にそんな言葉でからかわれる。
「いや、今日は君の所に用があってね。」
並べられた商品を眺める。
と、探していた者に目をとめた。
「すまないそこの指輪を取ってもらえるか。」
店主からそれを受け取り、しげしげと眺めると、オルヤの顔が浮かんだ。
彼女が亡くなった時、残された小さな指輪を見て心から泣いた。
若すぎる死に無情を感じ、自分を謗った。
この指輪は自分には辛すぎた。
「やはりいい…。すまないな。」
そう店主に謝り品を返す。
「何か悩んでんですか?こんな事いっちゃぁ商売あがったりになっちまいますが…。指輪が欲しいんなら、作ってみたらどうです?」
店主にそう言われハッと顔をあげる。
「ここにゃ鉱山があるんでしょ?だったら金でも掘って山岳もってきゃぁ作れんじゃないですかね?」
思いもかけない提案に心から驚いた。
「そうか…確かに。店主、有難う…。」
礼を述べると、勇んで鉱山へと踵を返した。
それから数日時間を見つけては山へ向かい、ひたすら岩を叩いた。
ある程度数が揃うと山岳の知り合いへ頼み、金の指輪を2つ作ってもらった。
そしてエリックと過ごした休日の朝、まだ眠る彼の薬指へ2つの内の1つをそっとはめる。
残りの1つは私の薬指へ…。
「ん…、おはようクロードさん…。」
暫くたちエリックが目を覚ました。
「ふぁ…。エ…?何…??」
目を擦ろうとしたその手にある”異物”にエリックが目を丸くする。
「これ…って…。」
ベットの端に腰かけている彼の前に立ち膝をつくと、その指輪をはめた手を両手で包み口づける。
そして…。
「エリック。私は君と生涯を共に生きたい。私と…結婚してくれますか?」
2人の部屋には静かにお湯が沸く幸せな音だけが響いていた。
”marry me…?”
go to the next stage…。
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