●その先へ…【番外編①】『いい夫婦の日』記念。


エリックと『恋人』として付き合うようになって、どれくらい経つだろう。

隣り合って眠る事も日を増すごとに多くなってきていた。

今も隣で穏やかな顔をして静かに寝息を立てている。

そんな彼をじっと見つめ目にかかる髪をそっと撫で払ってやる。

最近、思う事がある。

互いに一緒の時間を過ごし、こうして隣り合って寝ていても、私とエリックは括りでいえば『他人同士』だ。

何度肌を合わせ温もりを感じていても、互いが互いのものではない。

そんな関係を寂しく思うようになっていた。

公にも出来ず、隠れた関係性でいる事に、エリックに対してもそれを強いているのかという事に、辛さを感じる様になっていた。

 

「フッ…私も、欲張りになったものだな…。」

 

空を仰ぎそんな呟きが漏れる。

”けじめ”を付けよう…。と心を決した。

決したはいいが、どうそれを伝えようと思い悩む。

 

”結婚しよう。”

 

こんなに短い言葉を伝える事がこんなにも難しいとは。

オルヤに結婚を伝えた時、ここまで悩む事はなかったように思う。

若さとは恐ろしい物で勢いに乗じて動く事が出来る。

だか今はもう勢いだけに任せて動ける程若くはなかった。

それにその背景にあるものは、何もなかったあの頃とは違う。

どうした物かと、市場へと足を向けた。

 

「いらっしゃいっ!クロードさん珍しいな?今日は武具屋じゃないのか?」

 

雑貨屋の店主にそんな言葉でからかわれる。

 

「いや、今日は君の所に用があってね。」

 

並べられた商品を眺める。

と、探していた者に目をとめた。

 

「すまないそこの指輪を取ってもらえるか。」

 

店主からそれを受け取り、しげしげと眺めると、オルヤの顔が浮かんだ。

彼女が亡くなった時、残された小さな指輪を見て心から泣いた。

若すぎる死に無情を感じ、自分を謗った。

この指輪は自分には辛すぎた。

 

「やはりいい…。すまないな。」

 

そう店主に謝り品を返す。

 

「何か悩んでんですか?こんな事いっちゃぁ商売あがったりになっちまいますが…。指輪が欲しいんなら、作ってみたらどうです?」

 

店主にそう言われハッと顔をあげる。

 

「ここにゃ鉱山があるんでしょ?だったら金でも掘って山岳もってきゃぁ作れんじゃないですかね?」

 

思いもかけない提案に心から驚いた。

 

「そうか…確かに。店主、有難う…。」

 

礼を述べると、勇んで鉱山へと踵を返した。

それから数日時間を見つけては山へ向かい、ひたすら岩を叩いた。

ある程度数が揃うと山岳の知り合いへ頼み、金の指輪を2つ作ってもらった。

そしてエリックと過ごした休日の朝、まだ眠る彼の薬指へ2つの内の1つをそっとはめる。

残りの1つは私の薬指へ…。

 

「ん…、おはようクロードさん…。」

 

暫くたちエリックが目を覚ました。

 

「ふぁ…。エ…?何…??」

 

目を擦ろうとしたその手にある”異物”にエリックが目を丸くする。

 

「これ…って…。」

 

ベットの端に腰かけている彼の前に立ち膝をつくと、その指輪をはめた手を両手で包み口づける。

そして…。

 

「エリック。私は君と生涯を共に生きたい。私と…結婚してくれますか?」

 

2人の部屋には静かにお湯が沸く幸せな音だけが響いていた。

 

”marry me…?”

 

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